ペースメーカーの真後ろを走れ!空気力学を制してマラソン自己ベストを達成しよう
レースレポート
マラソン大会で自分の目標タイムのペースメーカーを見かけたら、彼らの真後ろにピタッと張り付いて走りましょう。ペースメーカーは正確なラップタイムを教えてくれるだけでなく「風よけ」の役割を果たしていることが科学的にも証明されています。
ペースメーカーの効用
今年から高速コースに生まれ変わった「東京マラソン 2017」では、レース前半、優勝したウィルソン・キプサングの前をペースメーカーがズラリと並んで走っていました。かなり異様な光景だったので今でも目に焼き付いています。
トップ選手が世界新記録を狙うビッグレースにおいて、今やペースメーカーは不可欠な存在です。それはトップ選手を心理的に「引っ張る」だけでなく、物理的に「風よけ」として選手の空気抵抗を軽減する役割を果たしてくれるからです。
少し古いですが、日経オンラインでペースメーカーの「風よけ」効果について書かれた記事があります。
ペースメーカーのかつての役割はレース途中まで正確なラップタイムを刻むことだったが、今では記録を狙うランナーの風よけになることだといわれている。
この記事に登場する伊藤慎一郎氏は、工学院大学工学部の教授で空気力学の第一人者。2007年にダミー人形を使った実験では、マラソンにおけるペースメーカーの空気影響は選手にプラスをもたらすと結論付けています。
マラソンにおいてペースメーカーの空力影響を調べるためにその考えられるいくつかの配置を模擬して主走者に対する抵抗軽減の度合いを実験的に調べた。その結果、以下のことが見出された。
- ペースメーカーによるスリップストリームの効果が認められる。
- ペースメーカーの最適配置があり、少なくとも最大で単独走行の7%程度まで空気抵抗を減ずることが可能である。
- ペースメーカーにはタイムラップを刻むだけでなく、主走者への体力温存の効果がある。試算では2時間10分ペースのランナーが温存できるエネルギーを時間に換算すると4分程度にもなる。
実験ではペースメーカーの数や並び方を変えて空気抵抗を計測し、ペースメーカーを横3列に並ばせるフォーメーション(図b)が最も効率がよく、単独走行に比べて最大で7%の負担軽減が期待できるとのことです。1秒を競うビッグレースで7%の差はかなり大きいです。
サブ2プロジェクトでも注目
大手スポーツメーカーのナイキがフルマラソン2時間切りを目指すプロジェクト「BREAKING2」が発足して半年が過ぎましたが、今年の5月に行われた記録会でもペースメーカーの「風よけ」が話題になりました。記録会では、サブ2に挑んだエリウド・キプチョゲ選手の前を、時計車、ペースメーカーの順番で走っています。
関連記事:ナイキ「BREAKING2」速報。キプチョゲが42.195キロを2時間00分25秒で完走!サブ2は未達
後にStephen Ferguson氏がスーパーコンピューターを使ってレースを分析してみると、時計車よりもペースメーカーの方が「風よけ」の効果が強かったことがわかりました。
参照:Uncovering the Aerodynamic Trickery behind Nike’s Breaking 2 Project
市民ランナーができること
以上は世界新記録を狙うトップ選手の話ですが、一般ランナーでもペースメーカーの真後ろに張り付いて走れば、空気抵抗の軽減が見込めるのではないでしょうか。
ちなみに6月に出場した「黒部名水マラソン2017」では、前半20キロ地点まで、3時間半のペースメーカーの斜め後ろを走りました。ペースメーカーの近くには十数名のランナーが集団となって走っているので、彼らの真後ろを走っていれば、もう少しタイムは良かったかもしれません。